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福岡高等裁判所那覇支部 昭和62年(う)46号 判決

主文

原判決を破棄する。

被告人を罰金一〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金二〇〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

原審における訴訟費用は、被告人の負担とする。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人泉亀上提出の控訴趣意書に(被告人提出のものも結局同旨)、これに対する答弁は、検察官提出の答弁書に、それぞれ記載されたとおりであるから、これらを引用する。

一  控訴趣意第一点(事実誤認)について

所論は、要するに、被告人の本件各行為は本件船舶の性能や安全性等の資料を得るための試験研究行為に過ぎないのに、原判決はこれを船舶職員法や船舶安全法上の行為とした点に事実の誤認があるというのである。

そこで、原審記録を精査して検討するに、本件の各外形的事実は被告人も認めており証拠上明白であるところ、たとえ、その行為が被告人のいう本件船舶の性能や安全性等の資料を得るための試験研究行為であったとしても、本件の場合船舶職員法及び船舶安全法の適用を除外する事由は全くなく、原判決が被告人の本件各行為につき船舶職員法及び船舶安全法に該当する行為と認定した点に事実の誤認はない。論旨は理由がない。

二  控訴趣意第二点(理由齟齬ないし理由不備)について

所論は、要するに、弁護人らは、被告人の本件各行為は特許法二条に定められた発明の実施として同法上認容された行為であるから船舶職員法及び船舶安全法は適用されないと主張しているのに、原判決はこの点について判断することなく船舶職員法及び船舶安全法を適用しており、理由齟齬ないし理由不備の違法があるというのである。

しかしながら、原判決は、「弁護人の主張に対する判断」の項で、本件の場合、実質的にも法規定の面でも船舶職員法及び船舶安全法の適用を除外する事由がないことを説示しており、理由齟齬ないし理由不備の違法はない。論旨は理由がない。

三  控訴趣意第三点(法令の解釈適用の誤り)について

所論は、要するに、刑法三八条三項はいわゆる行政犯について故意の内容として違法の認識を必要とする旨の規定であり、本件被告人には右の違法の認識がなかったのに、原判決は被告人に対し行政犯である船舶職員法及び船舶安全法違反の故意犯に当たるとして各法を適用しており、この点で法令の解釈適用の誤りがあるというのである。

しかしながら、所論は独自の見解であって、当裁判所はこれに左袒することはできず、また関係証拠によれば、本件の場合被告人に違法の認識が存したことは明らかである。論旨は理由がない。

なお、職権で調査するに、原判決は、「罪となるべき事実」第一で、有限会社甲野造船の代表取締役である被告人が同社の業務に関して同社所有の漁船を航行させるに際し所定の資格を有する海技従事者を船長として乗り組ませなかった事実を、同第二で、被告人自ら所定の資格を有する海技従事者でないのに同船に船長として乗り組んだ事実をそれぞれ認定したうえ、法令の適用において右第一及び第二の所為が刑法四五条前段の併合罪の関係にあるとして併合罪加重をしている。

しかしながら、右第一及び第二の所為は、原判決が認定したとおり、いずれも同一の日時場所において、同一の船舶の航海に関して、被告人一人が関与したものである。右のような事実関係を前提にして、法的評価を離れ構成要件的観点を捨象した自然観察のもとでその態様をみると、被告人の所為は社会的見解上一個の動態と評価すべきものであり、右各所為については刑法五四条一項前段の観念的競合の関係にあると解するのが相当である。

従って、右各所為について併合罪の関係にあるとした原判決には法令の適用に誤りがあり、かつ、右の誤りは処断刑の範囲にも変動をもたらすもので、判決に影響を及ぼすことが明らかと言わねばならない。

四  よって、刑事訴訟法三九七条一項、三八〇条により、原判決を破棄したうえ、同法四〇〇条但書に従い、次のとおり自判する。

原判決が確定した事実に、法令を適用すると、被告人の原判示第一ないし第三の各所為は、それぞれ原判決摘示の各法条に該当するところ、原判示第一と第二の各罪は、一個の行為で二個の罪名に触れる場合であるから、刑法五四条一項前段、一〇条により、一罪として重い原判示第一の所定の資格を有する海技従事者を船長として乗り組ませなかった罪(船舶職員法一八条違反)の刑で処断することとし、各所定刑中いずれも罰金刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪なので、同法四八条二項により各罪所定の罰金の合算額の範囲内で被告人を罰金一〇万円に処し、右罰金を完納できないときは、同法一八条により金二〇〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置し、刑事訴訟法一八一条一項本文により、原審における訴訟費用は、これを被告人に負担させることとして、主文のとおり判決する。

検察官 足立敏彦 公判出席

(裁判長裁判官 大城光代 裁判官 木村烈 裁判官池田耕平は転補のため署名押印することができない。裁判長裁判官 大城光代)

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